ボクがまだ高校生だった時のちょうど今頃、隣りに引っ越してきた同い年の女の子は椿花(はるか)という名前だった。「桜の季節なのに椿っていう名前はツライわ。」そう言って尖らせた唇は、ホントの椿の花のようなキレイな赤だった。

 隣のクラスに転入してきた椿花の周りは、いつも花が咲いたようだった。遠くからその様子をながめるだけのボクだったが、学校の帰りはどういう訳かいつも一緒だった。
 校門から大通りまでの約300メートルの道は、「フラワーロード」と呼ばれる通りが続いていて、いつも何かしらの花が咲いていた。新しい花がツボミをつけるたびに、「まだかなまだかな。」とはしゃぎ、花が咲くと「キレイ」、「カワイイ」を連発する椿花に、「キミの方が可愛いよ。」言ってみたかったが、ひまわりよりも鮮やかな唇を見ると何も言えなかった。

 「おまえらつきあってんの?」 そう冷やかされた秋の日の帰り道、その話を椿花に教えると、彼女は花びらを散らすように立ち上がると、誰もが見とれる微笑みをその唇に浮かべながら、ボクの耳元で「あたしは待ってんだけどナ。」と囁いた。どうやら椿花はミニスカートの下に魔法使いのシッポを隠しているらしい。

 そしてボクは、そのシッポに刺されて彼女の魔法にかかったらしい。

 お互いの想いに気付きつつも、何となく時間が流れていったある春の日、椿花から電話があった。 「お花見に行こう。もうお弁当も作ったの。」

  大きな荷物をボクに持たせた椿花は、どういうわけかウクレレを片手に持ちながら、買ったばかりだというピンクのワンピースを春の風になびかせて、ボクの前を歩いていた。白いフトモモが伸びる短めのワンピースに目を凝らしたが、彼女のシッポは見えなかった。
と、その時は思った。

 「ねぇ。」 とりとめの無い話をしたり、ウクレレに合わせて二人で歌ったりして時間が過ぎた夕方、二人同時にお互いを呼んだ。「なに?」思い切って告白しようと思ったボクだったが、夕日に染まる彼女の顔に見とれて何も言えなくなった。「じゃぁ、あたしからね。」ちょっと改まった感じで椿花が話し始めた。

 ボクは思わず椿花を抱きしめ、人前であるにも関わらず、無我夢中で、そして、始めて、彼女の赤い唇に触れた。
「恥ずかしいよぉ・・・。」離れた唇から最初に出た彼女の消え入りそうな声は、しかしボクの心の相当深いところまで聞こえたような気がした。そのまま暗くなるまで、椿花はボクの胸に顔をうずめ、背中に腕を回していた。ボクはといえば、ずっと彼女の髪をなでるだけだった。
 帰り道、二人は一言も話さなかった。けど、手はずっとをつないだままだった。ゆっくり歩いたつもりだったが、家の明かりが見えた時はさすがに胸が痛くなった。

 椿花が引っ越しするまでの一週間、僕たちは三度キスをした。

 今でもウクレレを弾くたびに、「恥ずかしいよぉ・・・。」と言っていた椿花の顔を思い出す。椿の赤では無く、桜色した頬だった。
  ボクは今も、彼女の魔法にかかりっぱなしなんだろう。

 ボクだけの、花の、魔法使いの…。



 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル